ディスコミュニケーション精霊編

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浦木裕
文章: 328
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ディスコミュニケーション精霊編

文章 浦木裕 » 2005-04-18, 00:49

自分はどんな漫画が好きでしょうか?
答えは、自分が共鳴できる漫画、或いは読者を選ぶ漫画です。



今度、『ディスコミュニケーション精霊編』を紹介して頂けたいんです。


ディスコミュニケーション精霊編 1 (1)
作者: 植芝理一
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 1999/12
メディア: コミック

ディスコミュニケーション精霊編 2 (2)
作者: 植芝理一
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2000/05
メディア: コミック


ディスコミュニケーション精霊編 3 (3)
作者: 植芝理一
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2000/11
メディア: コミック


先ず、永瀬唯氏*1がこれを「読者を選ぶマンガ」と評している。
その評語通り、あの漫画を見るには、膨大なアニメ、特撮、オカルト、そして古代史知識が要ります。

ディスコミュニケーション精霊編の主役は本篇の主人公・松笛篁臣より、遊部氏後裔の三島塔子が目立です。しかも続作の「夢使い」の主役は本当に三島塔子になりました。勿論、あの三島塔子の一部の特質は私のツボでも言えます。

どころで、その遊部氏は一体何者でしょうか?作者の説明によって、垂仁天皇の皇子・円目王はその先祖と言います。

いま、古代氏族の系譜を刊載していただきます。

     ┌誉津別命 
     ├五十瓊敷入彦命                ┌仁徳天皇……武烈天皇〔×〕
     ├景行天皇──日本武尊──仲哀天皇──応神天皇─┤
     ├倭姫命                    └………………継体天皇〔天皇家〕
     ├大中津日子命……〔山辺別〕
垂仁天皇─┼鐸石別命……和気氏
     ├息速別命……【阿保氏】
     ├意知別命──古奈曽乃君──加流波夜乃君──【小月山】宇津志(阿保氏/小槻氏)
     │       ┌忍健別命─┬押許呂見命──【山守部】許許米【春日山氏】【高志池氏】【五十嵐氏】
     ├五十日足彦命─┤     └佐太別命……【石田氏】
     │       └稚狭久良命──石別之君……【高志池氏】
     ├池速別命……〔沙本穴本之別〕
     ├磐撞別命──石城別王〔羽咋国造〕【三尾氏】
     └円目王……【遊部氏】

そう、遊部氏の遠祖は怨霊化した雄略天皇を平定する円目王である、古代氏族の系譜もはっきりその円目王の出自を書きました。でも、本当にそうでしょうか?実はそうでもない。

これより、私が作成した『先代旧事本紀』の系譜にも刊載していただきます。

垂仁天皇─┬誉津別命
     ├五十瓊敷入彦命
     ├景行天皇    ─┬稚倭根子命
     ├大中姫命     ├大酢別命
     ├倭姫命      ├吉備兄彦命
     ├稚城瓊入彦命   ├武国凝別命
     ├鐸石別命     ├神櫛別命
     ├胆香足姫命    ├稲背入彦命
     ├磐撞別命     ├豊国別命
     ├祖別命      :
     ├池速別命     :                 ┌仁徳天皇……武烈天皇〔×〕
     ├五十速日別命   ├日本武尊──仲哀天皇──応神天皇─┤
     └五十日足彦命   ├成務天皇             └………………継体天皇〔天皇家〕
               ├五百城入彦女命
               └五百野姫皇女命

『先代旧事本紀』の系譜より

先代旧事本紀の系譜は記紀とちょっと違いますが*2、この当たりは同じです。つまり、日本書紀をみても、古事記を見ても、円目王の記録は見当たらない。一般論として、古代氏族の出自は記紀を準ずると思います。(姓氏録などは後世の書物)


『令集解』には、遊部の記録があります。
『令釈』:「遊部、隔幽顕境、鎮凶万魂之氏也、終身勿事、故云遊部。」『古記』曰:「遊部者、在大和国高市郡、生目天皇(垂仁天皇)之苗裔也。天皇之子円目王、娶伊賀比自伎和気女為妻也、凡天皇崩時、比自岐和気等到殯所、而供奉其事、仍取其氏二人名、称禰義与此也、禰義者負刀並持戈、与此者持酒食、並負刀入内供奉、唯禰義等申辞者輒不便人知也、(中略)其人終身無事、免課役任意遊行、故云遊部。」
『令集解』より

つまり、「遊部は、幽顕の境を隔て、凶閧魂を鎮めるの氏なり。身の終わる事なし。故に遊部と云ふ。」そして『古記』は素性を語っています。あと、『穴説』が:「また其の人好むは、凶閧魂を鎮めるを為し、故に身の終わる事なし。課役を免れ、任意遊行す。故に遊部という。」があります。

また、日本三代実録の元慶四年条には、以下の記録があります。
廿日庚子。勅。大和國十市郡百済川辺他一町七段百六十歩、高市郡夜部村田十町七段二百五十歩、返入大安寺。先是、彼寺三綱申牒■稱)。昔日、聖徳太子、創建平群郡■熊)凝道場。飛鳥崗本天皇、遷建十市郡百済川辺、施入封三百戸、号曰高市大官寺。子部大神在寺近側。含怨屡焼堂塔。天武天皇遷立高市郡矢部村、号曰。高市大官寺、施入封七百戸。和銅元年、遷都平城、聖武天皇降詔、預律師道慈、令遷造平城、号大安寺。今検両処旧地、水湿之地、収為公田、高燥之処、百姓居住。請。依実返入、為寺家田。従之。
『日本三代実録』より

故に、夜部・遊部は同じものだと思います。夢使いはこれからのでしょうか。

要する、一番詳しいのは、『古記』でしょう。
雄略天皇の崩御の際、今までの供奉の一族が絶えていたので代わりに行った垂仁天皇の子円目王に「詔して今日以後、手足の毛八束毛に成るまで遊べ。」と詔す。故に遊部君と名づくなり。但し、この条の遊部は、謂は、野中古市人の歌垣の類是なり。
『古記』より

雄略天皇の怨霊平定ではないけど、雄略天皇の崩御とその一族が絶えていた事と関わります。これより、折口信夫氏の「遊トハ、鎮魂ノ動作ナリ。」が有力だと思う。ディスコミュニケーション精霊編の遊部ネタも多分、ここからのでしょうか?

ですが、遊部について具体の事例を書く古籍、『令釈』も『穴説』も、『古記』も*3、どちらも記紀のような権威がある典籍ではないから、入手出来るの情報は少ないんです。植芝理一氏はよくここまで冷遇された情報を探し出すよね。

機会があれば(ないと思います)、植芝理一氏と結識したいと思います。(あと、『全日本妹選手権』の堂高しげる氏も)

訳判らん事を言うなッ!と言いたい方、もっと判りやすいレビュー↓をご覧下さい。
http://www.interq.or.jp/neptune/namihei ... c0042.html
http://www.interq.or.jp/neptune/namihei ... c0023.html

*1:知る人が知る、GUNDAM CENTURYから始め、M.S.ERA、G20など数多いのガンダム関連コンテンツを執筆する方です。逆襲のシャアのフィルムコミックにでのアクシズ落下しなかった事についての合理化解説も私の気が合う。

*2:特に、蘇我入鹿を蘇我馬子の息子と書いたこと。

*3:『穴説』と『古記』の一部は、〈遊〉についてからの引用文です。
羊の群れに紛れた狼は、さみしい牙で己の身を裂く...
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キモヲタ大嫌い。
浦木裕
文章: 328
註冊時間: 2004-05-04, 01:37
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文章 浦木裕 » 2005-09-23, 06:57

■遊部氏(令集解)

遊部者、終身勿事、故云遊部也。解釋云、(中略)遊部、隔幽顕境、鎮凶万魂之氏也。終身勿事、故云遊部。」『古記』曰、遊部者、在大倭国高市郡、生目天皇(垂仁天皇)之苗裔也。所以負遊部者、生目天皇之蘗-圓目王、娶伊賀比自支和氣之女為妻也、凡天皇崩時者、比自岐和気等到殯所、而供奉其事、仍取其氏二人名、稱禰義余此也。禰義者、負刀、並持戈。余此者、持酒食、並負刀、並入内供奉也。唯禰義等申辞者輒不便人知也、(中略)其人終身無事、免課役任意遊行、故云遊部。(中略)後及長谷天皇(雄略天皇)崩時、而依罄比自支和氣、七日七夜不奉御食、依此阿良備多麻比岐。爾時諸國求其氏人、或人曰:「圓目王娶比自支和氣為妻、是王可問。」云。仍召問。答云:「然也。」召問其妻、答云:「我氏死絕、妾一人在耳。」即指奉其事。女申云:「女者不便負兵供奉。」仍以其事移其夫圓目王、及其夫代妻而供奉其事、依此和平給也。爾時詔:「自今日以後、手足毛成八束毛遊」詔也。故名遊部君是也。云云。

『令集解』國書刊行會本
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