[轉貼]西田の自害

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浦木裕
文章: 328
註冊時間: 2004-05-04, 01:37
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[轉貼]西田の自害

文章 浦木裕 » 2005-02-27, 14:37

西田の自害について
[小説 ガサラキ 接触・未来 より転載]


その時、(広川は)西田が別れ際に残して行った言葉が脳裏を過ぎった。

「事を収める?」

広川は思わず周囲を見回した。大勢の人々が事後処理のために働いている。その中に、一人、じっとメイン・モニターを見上げている男が居た。男は、食い入るようにモニターの中数字を見つめていた。その表情を見て、広川の表情が強ばる。彼は、慌てて他の人間達の顔に目をやった。広川が見た。今、多くの人間達の顔に、ある一つの表情が浮かんでいるのを。少なからぬ人間達が、ある者は自分のモニターを見つめ、ある者はメイン・モニターを盗み見ながら、一様に芒洋とした驚きと、微かな憤怒を浮かべている。

広川は気付いた。西田の説得で一度は心の中に収めた不満と野望が、再び頭をもたげ始めようとしている。彼らは今、自分達が葬り去ろうとしている計画に潜んでいた力の大きさに改めて心動かされ、そして、まだ遅くない、今からでもアメリカに致命的な打撃を加えられる、という思いを抱き始めている。虚ろな表情は何より雄弁にその事を物語っている。

今この場を支配している空気は、どんな小さなきっかけでも簡単に爆発してしまうだろう...

###中略###

西田が死んだ。

今、この情報中枢に西田の姿は無い。何故がその事がわかには信じられないような気がする。実際、西田がここにいたのは僅か三日余りの事でしかない。それなのに、永遠にその存在が失われたのだと解った瞬間から、ピットを満たしていた情熱は虚ろに沈み、全てが緩慢に静止していった。

ふわっと白い鳥が舞い降りるように、ゆっくりと時の流れが繰り返される。

呆然と西田の死の知らせを受け取る人々、重苦しい悔恨が潮のように拡がって行く。

虚ろな顔、顔.....。

今や、西田がアメリカに対するげ経済攻勢の中止を命じた時から一人一人の心の中に蟠っていた反発心はたちまちにして消えて行った。恐らくその瞬間、誰もが命を賭してまで自らの理想を貫き通そうとしたこの人物に対して後ろ暗さにも似た改悛を感じていたに違いない。そして、誰もが西田が残した最後の言葉を本当の意味で思い起こしていたに違いない。

『事を収めるのは、それを始めるより遥かに難しい......』
羊の群れに紛れた狼は、さみしい牙で己の身を裂く...
圖檔
http://d.hatena.ne.jp/kuonkizuna/
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キモヲタ大嫌い。
浦木裕
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文章 浦木裕 » 2005-08-24, 15:06

■豪和美鈴
ふと見ると、その絵の中に人が立っていた。涼やかに背を伸ばしたその姿は、方形の舞台の中で、どこか寂しげに見えた。
美鈴は声を掛けた。
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
美鈴が声を掛けたその人は自分だった。
美鈴は少しだけ不思議な気分になった。
「どうしてそんな所に一人で立っているの?」美鈴が訊く。
「あの人が、行ってしまわれたからです。」その人が答える。
“あの人?"──そう訊こうと思った瞬間、美鈴の喉の奥を熱い塊が抑える。行ってしまったのが誰なのか美鈴は知っていた。その人の悲しみは美鈴の悲しみだった。
「行ってしまわれた......」美鈴が呟く。
いつも......そう、いつも行ってしまう。一人、私を残して。私はただ同じ時を過ごしたいだけなのに。それでも、いつも皆行ってしまう......。
鈍い痛みが胸を締め付ける。
「どうして貴方は泣かないの?」美鈴が訊く...鈍い痛に耐えるよりも、涙に全てを任せる方が余程楽なのではないですが?
「涙はあの人を悲しませるから。あの人を悲しませるくらいなら、自分が苦しんだ方がいいから......」その人が答える。
切り取られた風景の中から、その人はじっと美鈴を見ていた。
美鈴は長い陽射しが差し込む座敷の中に立ち尽くす自分を見ていた。
もうずっと昔から見ていた。ずっと、たった一人の自分を見ていた。
いつも、私はたった一人の自分を見詰めるしかない?
こうして、離れた所から、切り取られた世界の中に一人で佇む自分を見ているしかない?
「でも、もう二度と帰ってこないのよ。」美鈴が言う。それは必死の抗いだった。
「帰って来て下さらない?」その人の顔が歪む。そして、青ざめた眼差しの下から、微かに掠れた声で呟く。「知っています......」
美鈴の心の中で、何かが小さいな音を立てて倒れた。千年の孤独......私はいつもそうだった。
千年前のこの少女のように......。
“......千年前?”
美鈴は改めて目の前の少女を見た。それは自分?いえ、そんな筈はない。私は眼の前に居るのが千年前の自分だと知っている?どうして、そうしてそんな事が......。
──美鈴はじっと机の上に置かれた自分の手を見詰めていた。晩秋の光が斜めに差し込んでくる。そこはいつも自分の部屋だった。
しかし、美鈴は暫くその事に気付かなかった。

『ガサラキ〈3〉接触』より
羊の群れに紛れた狼は、さみしい牙で己の身を裂く...
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